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第17回兵庫のまつり−ふれあいの祭典  −「詩のフェスタひょうご」−



第17回兵庫のまつり―ふれあいの祭典

「詩のフェスタひょうご」




文部科学大臣奨励賞

蝙蝠の山  

岐阜市 岸 成子


 標高300m程の、舟を伏せたような船伏山。
だがその山に一歩踏み込んだ者は、なぜか方向感覚を見失い道に迷うのだ。
それは誰も知らない船伏山の洞穴に、大昔から棲みついている蝙蝠の仕業だと人々は言う。
船伏山を盾にするように、旧陸軍第68部隊の頑丈な煉瓦造りの兵営跡がある。
狂気の時代の破片を詰め込んだまま置き去りにされた兵舎は、落雷に撃たれたような深い亀裂を入れて蔓草に覆われた身を晒している。
戦時中に幾人かの兵士が山中に入ったきり未だに誰も帰ってはいないのだ。
彼らは、何かの理由で上官に誤解されたり反感を買ったりして追いつめられ、山の中へ逃亡した人だ。時折大がかりな山狩りが行われたが、何の手がかりも得られず蝙蝠の巣や洞なども掴めなかった。
だが、蝙蝠は確かに船伏山に棲んでいる。
今も夕闇が深まる頃、何十羽もの蝙蝠が山の中腹あたりから飛び発ち、餌を捕り戻って来る所を見かける。
 逃亡せざるを得なかった兵士たちは、山を彷徨いながらその奥へと分け入って行ったのだろう。
コチラヘオイデと手招く、哺乳類のぬくもりをした、翼を持ちながらも鳥類になり切れない蝙蝠たちの呼び声が聴こえたのだろうか。
生命を賭けて部隊から逃れた者の傷ついた翼は、60年を経た今も、どこかで畳まれたまま風雨に打たれ続けているのか。
先頃、キノコ狩りに登った人が小さな洞穴で、兵士の持ち物らしい古びた水筒をひとつ見つけたが、あたりには他に何も見当たらなかったという。
 盂蘭盆の頃、祖母の家の納屋へ一羽の蝙蝠が迷い込んだ。
祖母は68部隊から発って逝った、叔父や従兄弟の魂が還って来たのだと言いながら、1日中念仏を唱えていた。
蝙蝠は仏様のお使いに違いない、と追い払うこともなかった。



選評 兵庫県現代詩協会   松尾 茂夫

 戦後六十年の節目にあたる今年、当時の生活体験をもつ熟年層によって多くの詩歌が作られた。この詩もその中の優れた一編と言えるだろう。 この詩は内地の軍隊のきびしい規律のなかで疎外され、脱走した兵士たちが山の洞窟に住む蝙蝠に化身したと信じる村人たちの心情を描きながら、戦争というものが戦場にあっても内地に居ても、人の心を歪め、荒廃させるものであることを、庶民感覚の内側から告発している。




第16回兵庫のまつり−ふれあいの祭典 「詩のフェスタひょうご」




  文部科学大臣奨励賞

    「 鳥 」     岐阜県 斉藤 礼子



ときどき私の町で小さな鳥をみかけた

その鳥は 風のように青くすき透った羽をしていた

公園の日にきらめく噴水の傍らで語らう 少女たちの足もとで 鳥は おじぎをするように餌をついばんでいることもあった

並木の歩道を ベビーカーを押していく母親の若々しい肩のあたりに 木漏れ日のように羽ばたいていることもあった

喫茶店でお茶をのんでいる恋人たちの窓にも 夕日の坂道をゆっくりと歩いていく老夫婦のせなかにも 

その鳥の羽ばたく小さな影があった

鳥のいるそれらの風景を 一枚の美しい絵のようにじっとみつめ 心に焼きつかせながら 私は寂しいわけではなかった 寂しくて 鳥がその風景から抜けだして 私の両手に飛んでくるのを待っているわけでもなかった

鳥のいるこの時空に 私もいる それだけでよかったのだから 私たちの何気ない日々を荘厳にするように懸命に羽ばたく小さな青い鳥をたしかにみた その思い出だけで 私はこの光のなかに背をのばし立ちつづけていられるのだから

 私の目にしたそれらの光景が 

 とうに忘れてしまった私自身のものだったとしても

 遠い過去の あるいは 遥かな未来の・


けれども 小さな鳥は斃れやすい 私の町の

空でも 遠くの空でも 汚れない羽をもつものはなおさらだ

鳥が 風のようにひっそりと 私の眼差しの

なかで死に絶えていくことのないように その羽ばたきを静かにみつめつづけなければならない

その鳥が 何をねがい 何を贖って 一羽のつつましい鳥となり私たちのいるこの地上にやってきたのか それが本当にわかるまで





     選評  兵庫県現代詩協会副会長   松尾 茂夫


 メーテルリンクの童話劇「青い鳥」がつくられて、もう百年近く経つ。

チルチルとミチルという兄妹が夢のなかで、幸せの青い鳥を探してさまざまな国を遍歴するが見つからず、目が覚めて幸せの鳥が身近にいることを知る有名な物語である。

 この詩の作者は、わが国にあって、公園で楽しげに語らう少女たち、喫茶店で向かい合う恋人たち、乳母車を押す若い母親、連れだって歩く老夫婦のそばに「青い鳥」を見る。

 だが、この幸せの鳥はひ弱で斃れやすい存在である。
世界各地でいまも戦争がおこなわれ、難民が続出している中で、作者はいつかこの国の平和な暮らしも損なわれ、青い鳥が死滅してしまうのではないかと不安を感じ続けているのである。

 戦争とか平和とか、そんな観念語を一切使わず、言外にきちんと表現してみせる作者の優れた詩的表現力と最終漣の数行において、ちいさな幸せの青い鳥を守ろうという作者の決意表明には称賛と賛意を贈りたい。





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up date 2006/2/27

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